緋色のことば

私的なことばを書き連ねたり、SFを書いたりします。

新庄剛志「わいたこら~人生を超ポジティブに生きる僕の方法」

 

わいたこら。 ――人生を超ポジティブに生きる僕の方法

わいたこら。 ――人生を超ポジティブに生きる僕の方法

 

 新庄さんに関するホットなニュースを久しぶりに拝見し、こちらの本を読み返してみた。ちょうど一年前、出版直後に書店で購入し、一気に読み切ってしまい、しばらく体がホットになるくらいの元気をいただけたものだ。

現役時代に築いた「莫大な財産」を失った件についてはテレビ番組「しくじり先生」でも語られていたので、けっこう知られていると思う。書籍の冒頭でも書かれているけど、この本が面白いのは、新庄さんの生き方そのものが描かれていることだ。その考え方と行動力がとてもエンターテイメント性豊かで、読んでいる人間の心すら熱くさせてくれるところが良い。

「わいたこら」とは新庄さんの地元の言葉だそうで、一般的に言うところの「なんじゃこりゃ」に近い意味らしい。驚きの感情を表すもので、現役引退後に大切な財産(恩人への信頼も含む)を失った新庄さんの心境をよく表している。さすがのポジティブ男も、しばらく立ち直れないくらいのショックだったという。そりゃそうだ。人間であれば当然のことで、チキンの僕だったら生涯立ち直れない……というか、僕の場合はとても些細なことで数年の時を無駄にするほど絶望していたのだが、それはまた別の話。

新庄さんがすごいのは、逆境を楽しむ性質が多分にあるということ。それも半端じゃない。この点について、ご本人の言葉を少し引用したい。

僕は、うまくいかないことや
苦手なことがあると、
逆に燃えてしまうところがある。
最初から上手にできることをやっても、
ちっとも楽しいとは思えない。

 この考え方をいかにして貫いてきたかが、新庄さんの生き方と共に書かれている。ライターとして生きる僕が興味深かったのは、新庄さんが、幼少期から読字の能力に難があったと告白しているところだ。教科書を読むどころか、漫画の台詞ですらも読み取りにくく、友人との会話がかみ合わなかったという。(※ゆえに、この書籍は新庄さんの言葉を編集する形で書かれている)

こういう理由もあり、人とは違う自分に孤独を感じたという新庄さんだが、彼にはそんなデメリットを吹き飛ばすだけの才能があった。

圧倒的すぎる「身体能力」だ。

とにかく、足がめちゃくちゃ速い。サッカーやバスケなど、どれをやっても、ずっと前からやっている子達をすぐに超えてしまう。驚くことに、体育の先生の物真似でやってみた「人生初のバク転宙返り」すら、一発で決めてしまったという。(最終的に野球を選んだ「わくわくする」理由については、本書を参照のこと)

そんな新庄さんは、こんな風に語っている。

自分が得意なことを、人一倍頑張った。
だから、今の僕があるんだと思う。
だからみんなも、できないことがあったとき、「どうしてできないんだろう」なんて悲しまないでほしい。
できないことがあったら、「やらない」と割り切った方がいい。そして、「できない」代わりに、ものすごく「できる」ことがあると気づいてほしい。
それはスポーツなのか、音楽なのかはわからない。とにかく、一つだけできることを探して、そこに全力で集中した方がいい。

僕が感じ入ったのは、この言葉だった。
私事だが、フリーランスとしてなかなか先が見えない中、やっぱり自分は生き方を誤ったんじゃなかろうか、なんて思い悩むことがよくあった。そんな悩みをようやく振り切る、一つのきっかけになったと思う。新庄さんの身体能力ほどじゃないけれど、僕にも「ものすごくできること」としての力があるんだ、そんな風に思い直すことができたからだ。

テレビ的には「引退後の莫大な損失」の面ばかりが面白おかしく扱われるけど、この本で語られる新庄さんの考え方と生き様に触れるうち、「この人なら、また何か面白いことを始めるんじゃないか」なんていう期待を抱かさせてくれるから不思議だ。こんな逆境すら楽しもうとしていく新庄さんの生き方に触れると、「ようし、俺もいっちょやってみるか!」なんて気持ちになれる読後感が良い。

オッサンの僕が思うに、我が国では早いうちから安定思考を教え込まれ過ぎているのがいけない。この社会をうまく回していくための「小器用な優秀さ」ばかりが求められている。誰もが「こういう風に生きるのが幸せなんだよ」と思い込まされ、言いたいこともやりたいことも、どこかでセーブしてしまう。不満があったとしても、それを言っちゃあいけないよ、ってなところだろう。そりゃ、生きづらさを感じる人が多いわけだ。

とにかく、「わくわくする気持ち」が薄らいできたと実感する人は、性別年齢問わず、この本をお勧めしたい。何らかの刺激を必ずや得られると思うので。

なお、現役時代は「とぼけた発言」で話題に事欠かなかった新庄さんだけれど、実はかなりの計算高さを持った上で行動しているところ(詳しくは書籍を参照)が面白い。

だから、今回の「現役復帰宣言」についても、そこには何らかの考えがあってのことじゃないかと、僕は思っている。どんなことかは分からないけど、間違いなく、誰が見ても「わくわくできるようなこと」なんだろうな。